狭心症・心筋梗塞

”胸が時々きゅっと痛くなる”

狭心症・ジョージ先生

こんな症状を自覚したことはありませんか?
「もしかしたら心臓が悪いのかもしれない」
「心筋梗塞ではないだろうか」
と思う方も多いと思います。

狭心症や心筋梗塞などの心臓病は癌、脳卒中に並んで日本人の三大死因の一つと言われるぐらい特に重要な疾患です。特に狭心症や心筋梗塞は食生活の欧米化に伴い、年々増加の傾向にあると言える、”他人事ではない”病気の一つです。胸の症状を自覚したら、「もしかしたら…」と考えるのは当たり前かもしれません。

しかし、実際には”胸が時々きゅっと痛くなる”と言うような、一瞬の胸の痛みを自覚される方の場合、冠動脈CTなどまで行いきちんと精査すると、ほとんどの方は問題ないという結果に至ります。

これは、そもそも狭心症や心筋梗塞と言う病気は、そのメカニズムから考えても”きゅっ”と言うような一瞬の胸の痛みを生じる様な病気ではないからなのです。ですからこういう症状の方の場合、精査の結果、ほとんどの人は問題ないという結果に至るのです。

では実際狭心症や心筋梗塞の症状はどんなものなのかと言うと、実はその症状の出方はさまざまと言えます。心臓の痛みなので、きっと胸の真ん中あたりが痛くなるのだろうと思う人がほとんどだと思われます。

確かに一番多いのは、胸全体に締め付け感や押さえられるような圧迫感を感じることですが、
次のようなものが出た時も、十分狭心症や心筋梗塞の可能性が考えられます。

・歯や口周辺に違和感(虫歯の痛みと勘違い)
・あごやのどが浮くような感じ
・背中に痛みを感じる
・ひどい肩こりのような痛み(肩こりと勘違い)
・みぞおちが苦しい(胃の症状と勘違い)

結局おなかの上の方から、口のあたりまでの症状はすべて狭心症や心筋梗塞の可能性があるということになります。

 

狭心症や心筋梗塞のしくみ

狭心症(や心筋梗塞)の症状は、心臓の周りを走る”冠動脈”が動脈硬化のために詰まりかける(または詰まってしまう)ために、心臓の筋肉に血が行かない、つまり酸素が行かないことで、心筋細胞が窒息して死にかける(または死んでしまう)ことによって生じます。

動脈硬化で”冠動脈”が詰まりかかってくると、労作により心筋細胞が酸素不足になった時だけ胸の痛みが生じます。
労作を止めるか、ニトロの様な冠動脈を広げる薬を使うことによって、酸素不足が改善するとやがて痛みが治まってきます。
なので、症状が改善するまで少し時間がかかるので普通は一瞬の痛みではないということになります。

(冠動脈が詰まりっぱなしで酸素不足が改善しないと心筋細胞がどんどん壊死を起こして、いわゆる心筋梗塞になります。この場合痛みはいつまでたっても改善しません。)

 

健康診断だけで大丈夫?

一般的に心電図に異常がでるのは心筋細胞が窒息して死にかけているとき(もしくは死んでしまったとき)です。つまり冠動脈がかなり細くなっていても、心筋細胞が死にかけていない時(つまり症状のない平常時)にいくら心電図をとっても”正常”という答えが返ってきます。ですから普段の検診の心電図で”異常なし”と結果がでても、決して安心はできません。

結局狭心症の診断を行うには、発作を起こしているまさにその瞬間に心電図検査を行わないといけません。
しかし、なかなか(上記の様な症状がまさに出ている)そのタイミングで心電図を行うのは難しいです。そのため、冠動脈が詰まりかけているかどうかを判断するには、別の方法を考える必要があります。

冠動脈の狭窄を直接的に評価を行うには、心臓カテーテル検査が一番ですが、これには一般的には入院をして、体にカテーテルという管を入れて、冠動脈に直接造影剤を注入する必要があります。
症状が頻発して間違いないというのならともかく、ほとんどの方はどちらともいえない状況で、それでいきなりこの検査を行うというのはやはり抵抗があるものだと思われます。

そこで最近はCT検査で冠動脈を評価して、そこで異常が疑われたら覚悟を決めて、カテーテル検査を行うという流れになりつつあります。
ただし冠動脈CTも、腎機能の問題があったり、アレルギーの問題があったりするので(また、金銭的負担も馬鹿にならないですから)、むやみやたらと行うのではなく、可能性が高い方(糖尿病、高血圧、高コレステロール、喫煙者、肥満者、身内に心筋梗塞患者がいるなど)を中心に行うことが一般的となります。

症状がないから関係ない?

高齢者や糖尿病の経過が長い方は要注意です。

なぜなら、それは狭心症や心筋梗塞を起こしても痛みを感じないことがあるからです。
高齢者や糖尿病歴の長い人は心臓の痛みの神経がやられていることがあり、そのため心筋梗塞を起こしているのに、"何となく胸がおかしい"、"胃の調子が悪いみたい"ぐらいにしか感じなかったりすることがあります。
しかも、心筋梗塞の痛みは1週間もすれば治まってしまうので、1週間ぐらい調子が悪かった程度に思っていて、本人も気が付かないうちに心臓の筋肉がかなりやられてしまい、のちのち心不全で苦しむことになってしまいます。

ですから、特に糖尿病の経過の長い方は症状の有無にかかわらず、冠動脈の検査を受けるべきだと思われます。


*冠動脈CTは総合病院などの大きな病院でないとできません。
 当院では連携先の桑名東医療センターに直接検査予約を行いますので、外来受診をすることなく冠動脈CTの検査を受けて頂くことができます。
(検査だけでなく紹介をご希望の方は、循環器外来へ紹介をさせて頂きます。)


胸が痛くなる病気は必ずしも狭心症や心筋梗塞だけではありません。

急性大動脈解離 (大動脈血管の内側が裂けてめくれあがってしまう状態)
大動脈瘤切迫破裂 (大動脈が大きく腫れあがって破れかかっている状態)
急性肺塞栓症 (肺の血管が血栓でつまってしまう状態)
心膜炎・心筋炎 (ウィルスなどが原因で心臓の筋肉や膜が炎症を起こしている状態)
胸膜炎 (肺炎などの炎症が肺の外側の膜にまで及んで痛みを生じている状態)
気胸 (肺に穴が開いて、肺が縮んでしまっている状態)

食道痙攣 (食道の筋肉が痙攣を起こしている状態)
胃潰瘍・十二指腸潰瘍
胆石発作 

帯状疱疹
肋間神経痛     など

胸が痛いと言っても、上の様にさまざまな原因(消化器疾患や皮膚疾患も)があり得ますから、いろいろ考えなければいけません。

問診や検査(緊急採血や心電図、レントゲン、心臓超音波(エコー)など)を適切に組み合わせて(時には様子観察を行いながら…)診断を行い、必要な治療を行っていきたいと思います。